(6)その大学でなくてはならない理由① 情報収集
志望動機を別の角度からみます。難しいのは学部・学科を選んだ理由ではなくて、「その大学でなくてはならない理由」です。何度も繰り返して恐縮ですが、多くの受験生にとってどうしてもその大学でなくてはならない理由は本音ではありません。そこの学生というブランドやランキング表の上の方にあって鼻が高いから、という理由だってありえます。試しにその大学にしか無いものを挙げようとしても、答えに窮してしまいます。
ここでも責めているわけではありません。ある大学が始めた良い取り組みは他大学でも取り入れていくでしょうから、そんなに大きな違いは見出しにくいのです。
でも、面接で聞かれたらどう答えたらいいでしょう。「あなたが〇〇を学んでいきたいのはわかりました。ではそれを学ぶためになぜうちの大学なのですか?」と聞かれたら‥
一般的に方法は2つあります。
1つ目は、その大学のパンフレットやHPからあなたが学びたい最も近いものをピックアップする方法。
2つ目は、オープンキャンパスや体験授業へ行った時の印象を述べる方法。
今回は1つ目を見ます。
HPやパンフレットに大学の研究室でどんなことが行われているか紹介されています。その中から「私がやりたいのはコレだ!」と思えるものがあれば、「ここで学びたい」と結合すればいいでしょう。国家資格の取得率や国家総合職や警察官、消防士や教員など採用試験の合格率が高い学校なら、その高さの理由となっている取り組みを把握して、「ここで学びたい」と結合すればいいでしょう。
次の例は、中央大学がネット上で配信している教養番組です。かなりの数の番組があり、大学の先生方が興味深いテーマで講義をしています。大学の授業そのままではないかもしれませんが、先生方が扱っているテーマや学べる内容のヒントを与えてくれます。

紹介されているものの中には見つからない場合、「コレだ!」というものがない場合は、どうしたらいいでしょう。その大学で行われているゼミナールや講座、授業のページを見てみましょう。大学での講義の概要、授業内容をシラバスと言いますが、実際に入学したあともこれらのシラバスを参考に授業を選択していきます。表での一覧になっているものが多いので、詳しい内容はわかりません。表の中から自分の興味や解決していきたい内容と関わりがありそうなものをいくつかピックアップして、担当の先生と授業名をメモします。
次の例は多くの大学でみられる先生方の紹介のHPです。この大学では先生方をクリックすると研究内容やどんな生徒に学んで欲しいか、紹介されています。「受験生のための…教員紹介」なので、総合型選抜で活用して下さい、というメッセージも暗に含まれています。

シラバスや上のようなHPでは、授業の内容は細かくはわかりません。面接でそのまま「〇〇先生が担当されているギリシャ哲学のゼミで学びたいので志願しました」という答えのままでは大ざっぱすぎます。面接官から「なぜ、〇〇先生から学びたいのかね?」、そうは聞かれませんが「隣の大学の△△先生のギリシャ哲学ではダメなのですか?」と聞かれても答えられません。まだ必然性が無いのです。
メモした担当の先生やのゼミ、講座名でネットで検索をかけてみましょう。すると先生ご自身の研究発表や論文、所属している学生のレポートや卒論がヒットします。これらから自分がやりたいもの、それに近いものを探していきます。
ゼミやシラバスで区別できなければ、学びたいことで検索します。たとえば大学で「いじめ」を探究していきたければ、「いじめ 学会」で検索する。いじめ学会は存在していませんので、ジャストフィットはしませんが、「いじめに関する研究者一覧」がヒットします。あなたの志望する大学の先生がそこに掲載されていれば、その先生のお名前で改めて別の検索をかけてみましょう。
これらの作業は時間がかかります。パンフやHPで紹介されていた一部の先生が自分がやりたいことと近いとは限りませんから、まず先生を探すのに時間がかかり、探したあとも、そもそも先生の論文を読むことが簡単ではありません。
しかし、先生の名前が挙がり、その先生の特徴、専門分野や業績を的を得て理解し、表現できれば、大学側は落とすことが難しくなります。その先生が在籍している以上「その大学でしか学ぶことができない」必然性が表現されたことになるからです。面接の評価がAの方がよいABCDEの5段階評価だとして、あなたの何分間かの面接が終わり、面接官は評価を付けます。「〇〇先生のもとで✖✖を学びたい」と表現した受験生に対して、CやDの評価を付けられるでしょうか。〇〇先生が非常勤の先生でもない限り難しいものです。
ただ、注意してください。あくまでその先生の専門分野や業績を的を得て理解している場合だけです。的を得ていなければ「教員の名前を挙げれば合格すると思っている不純な受験生」、評価Eです。先の例で言えば、〇〇先生は確かにシラバス上では「ギリシャ哲学概論」を担当していますが、専門はギリシャ時代ではなくローマ時代のキケロ、キケロがギリシャやヘレニズムのストア哲学から影響を受けているために担当しているに過ぎない、というような例はたくさんあります。少し回りくどい例をあげましたが、先生の名前を挙げる場合は、慎重に進めましょう。
ゴールに近い志願理由書を改めて見てみます。
このオンライン塾は指導に自信を持っているので見本を掲載していると推測されます。ここで表現されていることは細かく感じる人もいるでしょう。ポイントはこの細かさ自体ではありません。自分がしたい研究、自分が抱いている問題を解決するために、その大学や学部の何を活用していこうとしているのかが明確な点がポイントです。さらに先生の名前も入っていて、その先生の業績についても理解しています。
ゼミや海外留学プログラムに参加したい、なんてことは受験生全員が表現していると想定していいくらいです。そこでは差がつきません。そこではなくて、それらに参加する目的は何のためなのか、自分のまた学びたいことや設計とどう関わるのか、つながっています。「私が学んでいきたいことが御校のこれらを活用すれば実現するんです」であって、「私が学びたい御校のこれにも参加していきたいです」ではないのです。
食べ物屋さんで言い換えます。「この店のこれを食べに来ました」はシェフやお店の人に喜ばれるでしょうが、「この店のメニューのうちならこれを選びます」では喜ばれません。
店と客を入れ替えます。このような受験において、店をあなた=受験生の側、客を大学=面接官だとします。たくさんいる受験生の中で、あなたの計画や企画を大学に買ってもらえるのかどうかのプレゼン合戦と考えることもできます。「私が解決していきたいことは、御校のコレとコレを活用すれば実現するんです」。そういう計画や意欲が見られています。主体はあなたの側、あなたが学ぶ設計や計画と、大学側のメニューをつなげたいのです。次の表はある雑誌に出ていたAO入試の合格者の志願理由です。
これらの合格者はこんなふうに世の中や世界を変えていこうと考えています。合格したくらいだから口先だけではない具体的な計画やプラン、過去の実績などキラリと光る何か、説得力があったはずです。同じことを志望動機としてただ表現しただけでは合格しません。
少し引いて考えると、受験でこんなふうに夢やプランを語ることができるのはすこし羨ましいですし、ワクワクします。合格者はプレゼンが採用されたと言えます。こんな大きなプロジェクトや野望でなくても構いません。それを大学が持っているメニューとつなげていきましょう。
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