高校 政経・倫政の補習講座

大学入試に向けた知識、学んだことと生活を結びつける知恵を提供します。

カテゴリ: 読んでわかる、新しい入試制度(志望動機、過去の実績、面接対策)

第3章 合格したら


がんばった結果
 めでたく君は大学に合格しました。今までの高校生活をがんばった成果であり、面接や小論文対策を通じて、自らを振り返り、表現できるようになった結果です。
 もう一般選抜に向けて、教科の受験勉強はしなくてもいいかもしれません。あの受験勉強という奴は、苦手教科を中心に「何でこんなことしなきゃいけないの?」、「数学が存在しない世界へ行きたい」と思ってしまうような虚しい面があります。その虚しさや、「自分の行き場はないんじゃないか」、「滑り止めの私立に落ちてしまったら、どうすれば良いんだろう」という不安から、合格した君は解放されます。
 合格発表される頃、学校の授業は受験に向けての仕上げの時期でしょう。模試であなたはある教科で自分で満足できる点数の80%をとった。一般選抜に向けて受験勉強しているクラスメートも同じように満足できる点数の80%だったとして、その時感じる不安やプレッシャー全く異なります。君にとっては大したことはない出来事でも、クラスメート達にとっては、せっぱつまった、焦る出来事です。同じ出来事でも、臨む姿勢や置かれている状況で、受け取り方が異なるのです。

 ここからは早めに合格したからこそ、失われてしまうかもしれないことを伝えます。早めの合格によって、せっかくの3年間が変な結末を迎えてしまう生徒さんが何名かいるからです。あなたも落ちていたら一般選抜に向けて取り組んでいただろうから想像はつくと思いますが、念のために確認していきます。 

 早めに受かったからこそ、損をする可能性がある面が3つくらいあります。
 一つは、その「落ちたら行き場がない」という不安を経験していないことです。周りと比較して劣等感を感じたり世の中から取り残され、自分が必要とされていない感覚。落ちた人や、一般選抜に専念している生徒は、不安を覚える自分と毎日闘っています。だからこそ、現役かはわからないとしても、合格発表の日は泣いて喜ぶことができます。そして、そうやって闘いを超えてきたことで自分に自信を持つこともできます。その経験を君はしていない。
 世の中には高校受験の時には前期選抜、大学受験の時も総合型選抜や学校推薦型選抜という人が存在します。ずーっと推薦。受験者数よりも、定員の方が多い時代にあっては珍しいことではありません。私自身がひがんでいる可能性もあるかもしれないのでそこは差し引いて考えて欲しいのですが、そういう人がいざ「実力」でしか勝負できない場面になった時、例えばビジネスでの大事な取引や入札、国家試験や採用試験などを前にした時、どんな勝負をするのか、心配が残ります。劣等感や先の見えない不安と半年以上、毎日戦ってきた人と、身についている実力や自信に差がないかどうかです。

 2つめ。大学入学後は「君は総合型選抜(や学校推薦型選抜)で受かった〇〇さんだね」ということが付いて回ります。直接言われないでしょうし、すべての担当の先生そう見られている訳ではありませんが、そう感じながらの生活となります。
 体育系の大学や学部で、高校時代の競技成績や実技試験で合格し入学した場合は、その大学の体育会系運動部に所属することになるでしょう。その運動部を途中で辞めることになった場合、事実上は大学も辞めなくてはならない例があると聞きます。ひどい仕打ちとも思えるでしょうが、一方で入試の時には「大学でも競技を続けていきたい」と面接したりして、他を押しのけて合格した訳ですから、当然という主張も理解できなくはないのです。ここではその是非には深入りしませんし、他の学部・学科はここまでは極端ではないでしょうが、一般選抜ではない方法で合格したことは付いて回ります。
 面接や志願理由書で「入学後の計画」をどう表現してきたでしょうか。その通りの大学生活ができなければ、君は嘘つきということになってしまいます。「受かっちゃったら関係ないもんねー」と開き直ることは可能ですが、嘘はいけないということではなく、「いい子のふりして生きなさい」という意味でもなく、合格発表の日までは、あんなに本気でちゃんとやりたいと思っていた自分を裏切ってしまうことが問題なのです。
 だから、受かった今だからこそ、受験学力もつけながら、入学後の計画や設計をしたそのことを逆算して、今できることを進めていって欲しいのです。受験対策でクセをつけてきた「考える」ことも継続して欲しいのです。総合型選抜で受からなかった生徒と同じように学習を続けなければ、多数派、一般選抜組と同等の学力を持てないままの入学になるかもしれません。よくある例は合格後、定期テストや模試の点数がズルズルと点数が下がっていく例、ひどい例では模試で受験する科目を減らしていって、なおかつ点数も下がっていく例があります。それらは受験学力へ向かう必死さが違うのでやむを得ない面があるとしても、大学から入学前に課されているレポートをテキトーに仕上げたり、スマホをいじる時間が増えるだけだったら、自分を傷つけていきます。ですから面接で主張した計画や設計を進めていきましょう。


まだ受かっていない生徒との関係
 3つ目、前期で受かっていない君の親友や同級生との関係が難しくなるひとがいます。君はもちろん実力で受かりました。一般選抜向けの受験学力ではありませんが、ある種の「実力」であることは確かです。しかし、その実力を出し切ったと思ったのに、落ちた子もいます。未だ受かっていない彼らは不安な闘いを続けているわけだから、君のちょっとした振る舞いで風当たりが強くなるのは避けられません。
 次の文章は、高校の前期選抜に落ちた中3生の『生活記録』です。

「今日は、前期の結果がでました。予想していたので私は自分の結果ではあまりショックを受けませんでした。けれど○○が受かったようで、心から祝福したいと思いながら、どこか複雑な気持ちがわいてきた自分にすごく怒りを感じました。私はどこかで○○をライバル視していたのかもしれません。ここは想定していた最悪と違う気持ちなので、そんな自分が本当に嫌になりました。」

 彼女は素直に振り返り、自分の感情を表現できるから、こう書くことができました。まだ受かっていない彼女たちは、受験への不安、受かった生徒へのうらやましさ、受かった生徒に意地悪な感情を持つ自分への嫌気、と二重、三重の感情を抱えています。中学生ですらそういう感情を持つのです。
 合格した君は、もっと大変で、大切なこと、人間関係を引き受けなくてはなりません。高校を卒業したら顔を合わせなくてもいい、関係なくなる人がいるかもしれません。しかし、今そばにいるその人たちを大切にしない人が、君が向かおうとしている次のステージにいる人を大切にできるのでしょうか。大学入学後の友人だけではありません。インフラが整っていないアフリカの村人に対してなら、スラムでゴミ拾いをしている子どもたちに対してなら、ここではないどこか別のところにいる人なら大切にできるのでしょうか。
 「こうすればいいよ」なんて簡単には言えません。昔の人は「汝が欲することを人にほどこせ」、「己の欲せざるところを人にほどこすなかれ」そんなふうに言い伝えてきましたが、君がどんな顔で毎日過ごしたらいいのかは教えてくれません。
 先輩の例を二つ。ある先輩は国立の自己推薦で早めに合格したので、学校に黙って自動車免許を取りに行っていました。教員のいない昼休みに「昨日の教習で坂道発進できなくてさあ」と嬉しそうに騒いでいたそうです。もしかしたら周囲が受験に向かって頑張っていていることへの、寂しさからの表現だったのかもしれません。しかし、周りはどう感じたのか、何となく想像がつきます。
 別の先輩は、合格した後も図書館で自分が進む分野を静かに探究していましたし、放課後補習も欠かさず参加し、真剣に取り組んでいました。考査も模試も下がりませんでした。すべての時間で自分が出来ることのベストを尽くそうとしていました。周りの生徒は彼女が合格しているなんて気づかなかっただろうと思います。
 どちらの先輩が、別の小さな場面でも、まだ受かっていない生徒を支えてきたのかは予想がつくでしょうし、どちらの先輩が周囲から信頼されているのか、これから迎えるそれぞれのステージで必要とされ、活躍していくのかも予想がつきます。
 合格発表の日から卒業式や一般選抜組の合格発表の日まで時間があります。この時間は、あんなに信頼し合ってきた仲が、君が早めに受かったばっかりに、それが引き裂かれてしまうかもしれない大切な時間であることは忘れないでほしいと思います。

(9)個人面接と集団面接

 面接は、大きく分けて個人面接と集団面接の2通りあります。比較してやりやすいのは個人面接、難しいのは集団面接やグループ討論の方です。
 個人面接から見ていきましょう。ここでもはじめに受験生の間違いやすい考え方、発想を指摘しておきます。
 それは、面接官はあなたに矢を射かけてくる敵ではないということです。
 質問という厳しい矢を放たれるので、盾で防御しようという発想は誤りです。そういう発想だとあなたの回答は硬く、面接官にとって興味を抱きにくい内容や印象になってしまいます。
 面接官の先生方は慣れているので、あなたが言い直ししたり、噛んだりは全然気にしない。けれど、総合型選抜とはあなたの方が自主的に受験しに来て、伝えたいことがあるのであって、面接官は評価する側であることは間違いありません。そうだとしても、敵ではありません。
 面接官側も「この受験生といずれ同じ研究室で一緒に時間を過ごすとすれば、どうかな」という視点を持っています。理想的には、面接の途中からは和やかなムードで、互いに自然な笑顔が出るような面接にしたいのです。「面接しているというよりは途中から会話しているみたいでした」という受験報告で落ちた生徒を知りません。
 が、なかなかそうはいかないでしょう。意図的に和やかな会話をつくりだすのは大人でも難しいことですし、笑顔が合格の鍵でもありません。ただ少なくとも、亀が甲羅の中に入って身を守るような姿勢ではなく、開かれた、会話をキャッチボールをするようなオープンな姿勢では臨んでほしいと思います。


 次は集団面接です。
 集団面接やグループディスカッションにおいて、まず気をつけたいのは、自分の言いたいことを一方的に主張し、言いっぱなしの表現をすることです。あなたの得意なテーマで討論することになり、正解に近いことを知っていたとしても、前の発言者が誤りに近いことを主張していたとしても、得意げに誤りを指摘し、一方的に「正解」を主張することは、プラスの評価になりません。集団なので他の受験生を蹴落とそうとして変に張りきってしまう発想は誤っています。

 逆にまったく発言しないというわけにもいきません。入試ですから。
 大学が集団面接という形態をわざわざ用いているのは、受験生が他者の発言をどのように聞いているのか「聞く態度」を見ているから、と考えたほうがいいでしょう。
 世の中に出て問題を解決する際には、多くの場合はチームプロジェクトや組織として解を出していくこともあり、大学もコミュニケーション能力を見ています。実際に多くの大学のアドミッションポリシーには「コミュニケーションリテラシー」が含まれます。

スライド32信大人文AP

 大学側の評価基準を見てみましょう。
 次の表は、2つの大学のグループディスカッションにおける評価基準です。評価基準のことをルーブリックといい、大学は面接室や面接官によって評価にズレがないように基準をつくっています。あくまでHPで見ることができる、一部の大学の例ですが、面接官が受験生の何を見ているのか参考になります。

スライド31ルーブリック

 「自分が優れた主張をすれば高得点」という評価ではないのがわかります。他者の意見を理解することが大切ですし、意見を述べている時には、視線を合わせたり、相づちを打ったりという動きも必要です。下を向いて黙ってただ聞いているのはよくありません。
 対応として、自分が発言する際に、次の例のような前置きを入れてみることを勧めます。
 「前におっしゃった方と似ていますが…」、
 「今までお二人の意見を聞いて思ったのですが…」
 「前の方は〇〇を念頭においてそう主張したのだと思いますが、✖✖に視点を移すと逆に…」、
 「今までの議論から、争点は〇〇ということになると思いますが、私も✖✖を懸念しますので…」
など、他者の発言を受けていることを示す前置きです。

 学校の「探究」や「課題研究」の授業で、班別にテーマを決める学校があると思います。個人別で探究するより難しいものです。テーマ、調査の方法、まとめ方、発表の仕方などなど、「何を、どのように、どうするか」問いをメンバーと話して決めていかなくてはなりませんから。自分だけの方が好きなことを早く進められる気がします。しかし、そのメンバーで「問い」を話して決めていく「遅さ」が「探究」や「課題研究」で付ける力なのです。繰り返しますが、実社会で問題の多くは、「問いを立てる力」に関連しています。例えば、

    ・この発電施設は、あらゆる災害に耐えるのか、欠陥があり得るとすれば何なのか。

    ・なぜ、自信を持って販売したこの商品は売れないのか、どうすれば売れるのか。

    ・ ある近隣の国Nと接していくのに望ましい外交とは何か、何をどうすべきなのか。

 これらの問いを立てた上で法的、経済的、社会的等の制度や条件を知り、チームや合議で解決、クリアしていく必要があります。実社会で「問いを立てる力」が求められているのがわかります。正解ではなくて、納得解。
 「探究」や「課題研究」は、これから求められる力の養成の場であり、面接の練習でもあるのです。


 次に集団面接が難しいのは、マイペースでいられないことです。自分の前に発言した人が、自分と同じ主張をしてしまった場合、逆に前の人が自分と反対の主張をして、反論を含めて主張しなくてはならない場合など、パッとすぐに応えるのは難しいものです。英語のディベートに慣れているような人は有利かもしれませんが、多くの受験生にとって簡単ではないでしょう。
 難関の国立O女子大学のAO入試に合格した先輩がいました。倍率はだいたい13倍。その大学は集団面接の他に、360分間でのレポート作成、20分の個人面接も課されます。その入試の集団面接20分間のうち、彼女が発言できたのは3回程度、「他の受験生のアピールがすごくて、気後れした」と振り返っています。大学側が受験生の何を見ていたのかは明らかにされませんが、集団面接において彼女は周囲の主張を落ち着いて理解した上で、的を射た自分の考えを、少ない回数ながら述べたことが予想されます。そういえば彼女は授業中もよくうなずいたり、わからないところは首をかしげたりしていました。強くアピールすることだけが合格に近づくわけではないことがわかります。
 集団面接は対策が難しいでしょう。大学や学部、学科が違えば問われるテーマや出題傾向が異なるので、自分の高校で面接の練習をするために人を集めるのが簡単ではありませんから。自分一人の力では無理、先生に頼っても同じ出題傾向でかつ「自分の面接内容を知られてもいい」と同意してくれる他の生徒を集めるのは、簡単ではありません。多くの受験生は、個人面接的な練習はできても、集団面接についてはぶっつけ本番になると覚悟して臨んだ方がいいでしょう。ですから、なおさら「探求」やLHR、通常の授業で周囲と討論するような場面があったらそれを生かしたいのです。誰かが意見をのべている時の聞く姿勢、周囲の意見を受けて自分がどう表現できるか、集団面接の練習だと思って取り組んで欲しいと思います。繰り返しになりますが、それは入試のためでもありますが、その後も求められている力です。
 こうして見てくると、普段の授業は大切、チャンスにあふれています。


(7)その大学でなくてはならない理由② その大学に触れた経験

 「その大学でなくてはならない理由」を考える2回目です。2つ目の方法は、オープンキャンパス(以下OC)や体験授業へ行った時の印象を述べる方法です。
 わかりやすくなるように、仮にあなたが高校入試の前期選抜の面接官だったとしましょう。面接に来た中3生がこんなふうに述べました。あなたの高校に入学したい意欲を、あなたならどう採点、評価するでしょうか。


 「貴校は、歴史と伝統があり、先日の公開授業でも各教室に電子黒板が設置され、黒板が広くトイレもきれいでしたし、バス停からも近いので学ぶのに適した学校だと思い志願しました。」


 「貴校は、制服がなくて私服で登校していいですし、部活動への参加の任意で、しかも週2日間は休養日にあてられています。自由な校風に惹かれて志願しました。」


 意欲がある感じがするでしょうか。私は感じません。取り繕っている印象が強いです。工学部などの理系学部で実験設備が整っていることは大切ですし、24時間使える図書館があれば確かに魅力的ですが、国内で有数の設備でない限り、設備や建物は主な志望動機にはなりません。就活で完全週休2日制であることや独自の育休制度を設けていることなど、福利厚生が充実していることが主な志望動機にはならないのと同じです。
 OCや体験授業の印象を志望動機につなげたい場合には、人に関わらせることを勧めています。その大学や学部・学科に関係する人、別のところで先生に関連させる方法については触れましたが、先生だけでなくや学生、OB・OGなど人を志望動機にするのです。
 例えば、OCや体験授業に行った時の内容が、ちょうどあなたが学びたいことと直結していればそれを志望動機にすることができます。一番いい。が、そんなことは稀でしょう、そうでなくても例えば次のような例が参考になります。


「ハイ、他の学校にはない特徴があるからです。なぜなら、OCに訪れた際に案内して下さった学生さんがいたのですが、緊張する私たちを笑わせながら、丁寧に案内して下さいましたが、この大学の魅力について『先生方はあまり学生に干渉しないけど、研究したい分野は思いっきりできる設備や文献が整っている』と教えて下さいましたし、『私、高校時代はコミュ障で誰とも話しなかったのにこんなふうに変わった』という話をしてくれました。貴校は私たちの力を伸ばしてくれると共に、自らを変えるチャンスを与えてくれる学校だと感じたからです。」


「ハイ、大学見学会で訪れた時の印象が忘れられないからです。なぜなら、案内して下さった〇〇先生がカイコのクズ繭で油を吸着する実験を見せて下さり、捨ててしまうクズ繭が水質浄化や環境保全に役立つことがわかりました。私が興味があるのは繭ではありませんが、捨てられてしまうような素材や身の周りでありふれている素材が世界に役立つ可能性があって、そういう研究をどんどん考えることができる貴校に惹かれたからです。」


 入学後の学びの設計には少し甘さがありますが、大学の実際の姿を見たことを伝えています。時間と労力を費やして、机上だけではできない表現、私にしかできないオリジナルな表現ができます。
  ここまで「その大学でなくてはならない理由」を見つける方法として、その大学のパンフレットやHPからあなたが学びたい最も近いものをピックアップする方法、オープンキャンパスや体験授業へ行った時の印象を人に関わらせて述べる方法の2つを見てきました。

 よかった例、これまでの自分を振り返り、相手の大学を調べた例を挙げます。

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  面接練習をしていて、この生徒さんが自分を振り返った過程を想像して、涙が出ました。きっと入学したら、いじめを防ぐための有効な研究をして、その姿勢やノウハウを身につけた教員になってくれると予想できます。つらい経験だって、志望動機になる。いや、つらい経験を振り返って、自分の未来や使命に生かすことができるのです。


(8)覚えていることができるか。そして緊張のピーク


 これまでのように面接練習してくると、けっこう答えられる自分に気付きます。自分のことも大学のことも見えてきたし、表現したいこともハッキリしてきました。そうすると新しい問題が生じます。それは「本番までに、その答えが覚えていられるか」です。
 結論からいえば、暗記する必要はありません。面接官の方も、暗記している台詞を呪文のように聞かされることは嫌なものです。たまに、本当にぶっつけ本番、面接練習も自分を振り返ることもしてきていないという受験生がたまにいて、「何しに来たの?」「うちの大学も舐められたもんだ」というケースもありますから、それよりはしっかり準備した方がいい。でも暗記は必要ではありません。
 また、大学のアドミッションポリシーやHPを調べる作業を即席でしてきたからでしょうか、それらに使われていた言葉をオウム返しのようにアピールしてくる生徒がいます。自分の言葉で語ることができていません。「御校のことをキチンと調べたんです」、「私は御校に沿った生徒です」とアピールしたい気持ちはわかりますが、大事なのはそこではありません。
 大事なのは、繰り返しになりますがあなたが学びたい、解決したい計画と大学が持っているメニューをつなげること、「私が学びたいこれを解決するためには、お宅の大学がベストなんです」というつながり、マッチングです。

スライド13マッチング

 高校受験の前期選抜をしていると、面接官に「いいなあ」と好印象を与える生徒がいます。なぜ好印象なのでしょうか。
 ・暗記していない。
 ・時々、笑顔が混じる。
 ・スラスラというよりは、ゆっくり話す。
 一言でいえば、自然体、平常心。合否のかかっている面接にのぞんでいるとは思えないほど、普通にしています。
 先ほど、ぶっつけ本番、面接練習も自分を振り返ることもしてきていないという受験生がたまにいることを紹介しましたが、矛盾するようですが、稀に結構いい面接になって、合格する場合があります。長い時間をかけて自分のことを振り返り、練習してきた受験生からすると腹立たしいことでしょうが、その稀な場合とは、例えばこういう場合です。
 小さいときから昆虫が好きで野山を駆けずり回って、いろいろ調べてきたのでその道ではかなり専門性が出てきて、第一人者の先生や大学もわかっていて、大学入学後も何を突き詰めようとしているかハッキリしているような生徒。面接における表現は荒削りですが、やりたいこととやってきたことの軸ができているので評価されます。これはレアなケースですが、新しい入試方法に適合しています。
 けれど、多数派の受験生はそうはいかないでしょう。ここで伝えたいのは、そういう練習せずに合格する生徒が存在するくらい、暗記ではなくて、入学後の設計や志望動機のような軸が大切だということ。

 平常心はどうやったら身につくのでしょうか。
 今までで一番緊張した出来事は何だったか、思い返してみましょう。
 部活の大会で勝敗がかかった場面、コンクールで幕が上がる瞬間、文化祭で発表した時、初めてのデートの待ち合わせで約束の時間が迫ってきた時‥
 一番緊張した出来事は人によって違います。なかなか一度や二度の経験で「もうどんな場面でも緊張しない」なんて人はいないでしょうし、今回は合格、不合格のかかった面接です。多くの人が「今までで最も緊張」する場面になると予想されます。
 面接が始まってしばらくたつと緊張もほどけてきます。が、最初の一言を発する前、面接室に入るために、ドアをあけるあたりで緊張はピークになるでしょう。手に汗握っている自分、季節は冬なのに、背中や脇の下から汗が落ちてくる自分に気づいたりして「あー、ヤバイ」となります。
 どうしたらいいでしょうか。
 正解はわかりません。ただ「悲観的に準備し、楽観的に対処する」ことかと思います。つまり、自分が思う最悪の事態を想定して、次に、もしそうなったら「こうしよう」と準備しておくことです。繰り返しになりますが、
 ・「どんな場面でも緊張しない」なんて人はいない。
 ・面接官は、噛んだらダメ、つまったらダメ、なんて思っていない。
 ・暗記する必要もない。
のです。問われていることは基本3種類。「あれだけ考えて、準備しておいたんだから」、「やるだけのことはやっておいた」と思えれるよう備えておきさえすればいいのではないかと思います。丸暗記で呪文を唱えるように表現するのはよくないのだから、忘れたらどうしようなんて考える必要もありません。

 先輩たちの受験報告書を蓄積している学校もあるでしょう。毎年聞かれていることや、よく聞かれる質問は繰り返し練習する。滑らかに淀みなく答えられるようになる。しかし、その暗記した分だけ気持ちの本気さや熱が伝わらないとしたら結果も良くないでしょう。大切なのは伝えようとする内容なのであって、淀みない表現ではありません。途切れ途切れでも、身振り手振りでフォローしても全然構わない、言い直したって構わない。過去の自分、志願している自分、未来への計画を伝えてください。

 最近は「噛んだらどうしよう」と緊張するらしいのですが、何回噛もうと、合否には関係ありません。上手くしゃべれないことはマイナス材料にはなりません。面接では面接官や面接室によって採点基準がズレないように評価表、ルーブリックを手元に置いています。言い直したからマイナス点、チェックを付けたと言う例は聞いたことがありません。「おなかが鳴ったどうしよう」と言う生徒さんもいますが、同じです。おなかがどれだけ大きな音で鳴ってもそのことで不合格にはなりません。大切なのは、あなたが伝えようとしている内容です。丁寧に一生懸命話せば、必ず伝わります。アナウンサーではないのだから、スマートでなくたって少しも構わない。この点はも誤解しないで臨んで下さい。

(6)その大学でなくてはならない理由① 情報収集


 志望動機を別の角度からみます。難しいのは学部・学科を選んだ理由ではなくて、「その大学でなくてはならない理由」です。何度も繰り返して恐縮ですが、多くの受験生にとってどうしてもその大学でなくてはならない理由は本音ではありません。そこの学生というブランドやランキング表の上の方にあって鼻が高いから、という理由だってありえます。試しにその大学にしか無いものを挙げようとしても、答えに窮してしまいます。
 ここでも責めているわけではありません。ある大学が始めた良い取り組みは他大学でも取り入れていくでしょうから、そんなに大きな違いは見出しにくいのです。
 でも、面接で聞かれたらどう答えたらいいでしょう。「あなたが〇〇を学んでいきたいのはわかりました。ではそれを学ぶためになぜうちの大学なのですか?」と聞かれたら‥
 一般的に方法は2つあります。
 1つ目は、その大学のパンフレットやHPからあなたが学びたい最も近いものをピックアップする方法。
 2つ目は、オープンキャンパスや体験授業へ行った時の印象を述べる方法。


 今回は1つ目を見ます。
 HPやパンフレットに大学の研究室でどんなことが行われているか紹介されています。その中から「私がやりたいのはコレだ!」と思えるものがあれば、「ここで学びたい」と結合すればいいでしょう。国家資格の取得率や国家総合職や警察官、消防士や教員など採用試験の合格率が高い学校なら、その高さの理由となっている取り組みを把握して、「ここで学びたい」と結合すればいいでしょう。
 次の例は、中央大学がネット上で配信している教養番組です。かなりの数の番組があり、大学の先生方が興味深いテーマで講義をしています。大学の授業そのままではないかもしれませんが、先生方が扱っているテーマや学べる内容のヒントを与えてくれます。

スライド10中大番組

 紹介されているものの中には見つからない場合、「コレだ!」というものがない場合は、どうしたらいいでしょう。その大学で行われているゼミナールや講座、授業のページを見てみましょう。大学での講義の概要、授業内容をシラバスと言いますが、実際に入学したあともこれらのシラバスを参考に授業を選択していきます。表での一覧になっているものが多いので、詳しい内容はわかりません。表の中から自分の興味や解決していきたい内容と関わりがありそうなものをいくつかピックアップして、担当の先生と授業名をメモします。
 次の例は多くの大学でみられる先生方の紹介のHPです。この大学では先生方をクリックすると研究内容やどんな生徒に学んで欲しいか、紹介されています。「受験生のための…教員紹介」なので、総合型選抜で活用して下さい、というメッセージも暗に含まれています。

スライド11横国先生

 シラバスや上のようなHPでは、授業の内容は細かくはわかりません。面接でそのまま「〇〇先生が担当されているギリシャ哲学のゼミで学びたいので志願しました」という答えのままでは大ざっぱすぎます。面接官から「なぜ、〇〇先生から学びたいのかね?」、そうは聞かれませんが「隣の大学の△△先生のギリシャ哲学ではダメなのですか?」と聞かれても答えられません。まだ必然性が無いのです。

 メモした担当の先生やのゼミ、講座名でネットで検索をかけてみましょう。すると先生ご自身の研究発表や論文、所属している学生のレポートや卒論がヒットします。これらから自分がやりたいもの、それに近いものを探していきます。
 ゼミやシラバスで区別できなければ、学びたいことで検索します。たとえば大学で「いじめ」を探究していきたければ、「いじめ 学会」で検索する。いじめ学会は存在していませんので、ジャストフィットはしませんが、「いじめに関する研究者一覧」がヒットします。あなたの志望する大学の先生がそこに掲載されていれば、その先生のお名前で改めて別の検索をかけてみましょう。 
 これらの作業は時間がかかります。パンフやHPで紹介されていた一部の先生が自分がやりたいことと近いとは限りませんから、まず先生を探すのに時間がかかり、探したあとも、そもそも先生の論文を読むことが簡単ではありません。
 しかし、先生の名前が挙がり、その先生の特徴、専門分野や業績を的を得て理解し、表現できれば、大学側は落とすことが難しくなります。その先生が在籍している以上「その大学でしか学ぶことができない」必然性が表現されたことになるからです。面接の評価がAの方がよいABCDEの5段階評価だとして、あなたの何分間かの面接が終わり、面接官は評価を付けます。「〇〇先生のもとで✖✖を学びたい」と表現した受験生に対して、CやDの評価を付けられるでしょうか。〇〇先生が非常勤の先生でもない限り難しいものです。
 ただ、注意してください。あくまでその先生の専門分野や業績を的を得て理解している場合だけです。的を得ていなければ「教員の名前を挙げれば合格すると思っている不純な受験生」、評価Eです。先の例で言えば、〇〇先生は確かにシラバス上では「ギリシャ哲学概論」を担当していますが、専門はギリシャ時代ではなくローマ時代のキケロ、キケロがギリシャやヘレニズムのストア哲学から影響を受けているために担当しているに過ぎない、というような例はたくさんあります。少し回りくどい例をあげましたが、先生の名前を挙げる場合は、慎重に進めましょう。
 ゴールに近い志願理由書を改めて見てみます。

スライド16よい例

 このオンライン塾は指導に自信を持っているので見本を掲載していると推測されます。ここで表現されていることは細かく感じる人もいるでしょう。ポイントはこの細かさ自体ではありません。自分がしたい研究、自分が抱いている問題を解決するために、その大学や学部の何を活用していこうとしているのかが明確な点がポイントです。さらに先生の名前も入っていて、その先生の業績についても理解しています。
 ゼミや海外留学プログラムに参加したい、なんてことは受験生全員が表現していると想定していいくらいです。そこでは差がつきません。そこではなくて、それらに参加する目的は何のためなのか、自分のまた学びたいことや設計とどう関わるのか、つながっています。「私が学んでいきたいことが御校のこれらを活用すれば実現するんです」であって、「私が学びたい御校のこれにも参加していきたいです」ではないのです。
 食べ物屋さんで言い換えます。「この店のこれを食べに来ました」はシェフやお店の人に喜ばれるでしょうが、「この店のメニューのうちならこれを選びます」では喜ばれません。
 店と客を入れ替えます。このような受験において、店をあなた=受験生の側、客を大学=面接官だとします。たくさんいる受験生の中で、あなたの計画や企画を大学に買ってもらえるのかどうかのプレゼン合戦と考えることもできます。「私が解決していきたいことは、御校のコレとコレを活用すれば実現するんです」。そういう計画や意欲が見られています。主体はあなたの側、あなたが学ぶ設計や計画と、大学側のメニューをつなげたいのです。次の表はある雑誌に出ていたAO入試の合格者の志願理由です。
スライド27合格者の志望動機
 これらの合格者はこんなふうに世の中や世界を変えていこうと考えています。合格したくらいだから口先だけではない具体的な計画やプラン、過去の実績などキラリと光る何か、説得力があったはずです。同じことを志望動機としてただ表現しただけでは合格しません。
 少し引いて考えると、受験でこんなふうに夢やプランを語ることができるのはすこし羨ましいですし、ワクワクします。合格者はプレゼンが採用されたと言えます。こんな大きなプロジェクトや野望でなくても構いません。それを大学が持っているメニューとつなげていきましょう。

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