大学に進学すべきか迷っている皆さん

 
 「大学へ進学することに疑問を持っているんです。」

 「専門学校でも同じ資格が取れるので、そちらでもいいと思っています」

 「大学に行くのをやめようかと思っています」

という声を聞くことがあります。 

 それらの疑問にすこしでも応えられたらと思って、大学に行く必要はあるのかを考えてみました。

 ただ筆者である私は大学を卒業し、そのことを後悔していませんのでフェアに記述できるかわかりません。その分は差し引いて考えて下さい。また多くのことがそうでしょうが、読みたくない、避けたい箇所があなたの琴線に触れています。そこのモヤモヤと向き合って下さい。

 それぞれの根拠を整理するとだいたい下のようになります。

 「大学に行く必要はない」という主張と「行った方がよい」という主張の理由をまとめると次のようになります。
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 まず、「大学に行く必要などない」という主張から少し詳しく見ていきましょう。

 ①学ぶ場所は、他にもある。
 学ぶ場所は、大学以外にもたくさんあります。

 独学で、例えば本や地元の公民館、カルチャーセンターで学ぶことができます。特にインターネットの力は大きく、ネット上には日常の知りたいことから論文まで掲載されていますので、何かを知りたい時、知識や情報が得やすい時代です。大学生自身がネットから情報を得てレポートを書いたり、卒論を作成することもあるので、逆に「大学でしか学べないことって何だろう?」と考えさせられます。

 ただ、大学で学ぶこととは知識や情報に限られるのか、またあなたが仮に深く知りたい、探究したいと考えたそのことが、大学以外の場所で独りよがりではなくてつきつめられるのか、など、保留したいこともあります。が、ほとんどの知識や情報は大学以外でも得ることができるのは間違いありません。


 ②学んでいる内容が仕事の役に立たない。

 卒業後は多くの人は働くことになるでしょう。その時、出身の学部や学科に関連する仕事をする人もいるでしょうが、そうとは限らないケースがたくさんあります。

 進学に際して、「将来の夢がかなえるためには、この学科でなくてはならない」というマストの学科があります。歯科医師になるためには歯学科に入学しなくてはなりません。医学部医学科、獣医学部獣医学科、薬学部薬学科などは、細かく言えば他にもルートがあるのですが、事実上はマスト、その学科に入学しなければその仕事に就くのは難しい。文系でも法曹(裁判官や弁護士、検察官)になる人はほとんどが法学部です。

 一方、逆に言えばそれ以外の仕事は、どこの学部・学科に入っても自分次第で就くことができます。特に人文系や社会科学系の学部は進路は限定されません。とすればある学科に入学して学んだことが直接の役には立っていないとも言えるわけです。
 次の図は、ある大学の心理学科の大学卒業後の進路先です。

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大学では心理学を中心に学びながら、実際の就職先は多岐にわたっているというか、直接は心理学とは関係のない進路先です。これらの企業に心理カウンセラーなど、誰かの心のケアに携わる職種で入社できる人は稀です。心理学科を目指している生徒さんはショックを受けるかもしれませんが、心理学科がこの傾向が著しいのです。人の心に興味があって、心理学科はけっこう入試の難易度や倍率は高くて入試を突破し、学んできたのに就職には関係ない。もちろん就職してから、人の心を学んできたことが役に立つ場面はあるかもしれませんし、これから社会が変化していく可能性もありますが、現時点では雇う側は学部で心理学を学んできたことをプラス材料とか、採用する理由にはしていないのです。

 蛇足ですが、先ほど掲載した大学は就職先を分類してこのように円グラフで掲載しています。多くの大学は円グラフを出しません。取得可能な資格や過去5年分など中期間で企業名を並べているだけです。受験生に「心理学を学んでも、それをいかした就職は難しい」ということをまるで知られたくないかのようです。その意味で心理学部や心理学科で単年度の円グラフを掲載しているところは良心的といえます。

 心理学部や心理学科ではなくても、話は同じです。学ぶ場所は大学以外にもたくさんあり、学んできたこととは直接関係ない方面へ就職するとすれば、大学へ行く必要があるか、さらに大学へ通うとなると入学金や授業料、下宿する場合には生活費もかかります。たくさんのお金を使いながら、元が取れたのかを考えると「大学に行く必要があるのか」疑問が出てくる方がむしろ自然です。

 専門学校への進学を考えている生徒さんもいるでしょう。

 次の資料は、ある専門学校のHPやパンフレットです。一般に専門学校はHPやパンフレットづくりが大学よりも先行していましたのでわかりやすいメッセージを発しています。


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 専門学校のパンフレットを見ると、大学をライバル視というか「大学よりも実用的」、「即戦力」、「確かな技能」、「夢へ直結」というような表現が多くなっています。

 少子化の時代ですから、専門学校は生き残りをかけて、学生たちに確かな技術を伝授しています。資格を取得する専門学校なら合格率が大切になりますし、学生が望む就職先を毎年確保することも大切になります。よって、実績に自信がある専門学校はそれらの数値を毎年公表しています。

 学生たちはきちんと技能を身につけるために、厳しい毎日を送っています。先生方も学生が技能を習得するためキッチリ仕上げようと情熱的です。この密度の濃い時間は多くの大学生とは比較になりません。

 先ほど例としてあげた専門学校ではありませんが、いくつかの専門学校のHPやパンフレットでそれら取得率、合格率など数値をよく見ると、例えば「資格試験の受験者は30人、合格者は27人で合格率90%!」と大きく掲載されています。そのこと自体は間違いないのでしょうが、確かそのコースの定員や入学者は50人いるはずなのに受験者が30人?と気付くことがあります。厳しくて辞めていった?成績が悪い子は受けさせてもらえない?推測はいろいろできますが、それくらい厳しい世界なのです。
 この資格の取得率の手法は短大や大学の案内等でも用いられていますので、メディアリテラシーというか注意が必要です。もし学校説明会やオープンキャンパスに行く機会があったら、担当者に直接聞いてみて下さい。「この高い合格率は全員が受験しているのですか?」「この企業へは毎年就職できているのですか?」と。きちんと答えてくれる学校は信用できます。

 
もう一度、HPの例に戻ります。下の学校の例では、

「たくさんの専門知識が学べるので、大学生よりも一歩前に出られます。就職するときにスタートラインが違うのは大きな自信にもつながります」

という表現があります。大学よりも短い2年間で学び、大学生よりも早く就職しますのでスタートが早く、実務経験も積み重なるでしょう。まったくその通りです。
 では、あとから入ってきた大卒者とのスタートラインの差は縮んでいかないのでしょうか。給与面はもちろん、技能面でもです。このHPは他のページを見ても内容、実績面でも信頼できそうな学校です。それでも、伝えていないこともあるのです。

 別の話。ペット関係の専門学校を出たのに、求人がないためペット関係の仕事に就けないと聞くことがあります。ペットショップは大規模なところは多くないですから、誰かが辞めないと採用はありません。ペット関係に就職するのは簡単ではないのです。パンフレットや学校案内、HPに出ている「進路先」はとても大切な情報になります。
 パティシエや製菓の業界はどうでしょうか。いくつかの転職サイトを見ると「新卒のパティシエの離職率は1年以内で約70%、3年以内で約90%、10年以内になると約99%」などと出ています。どうも早朝から深夜まで下積み仕事ばかり、苦しい思いをして学んだことをいかす見通しが立たずに、疲弊してしまうようなのです。スポーツ関係の専門学校も同様の傾向がありますし、さらに40歳、50歳になった時の収入や体力が持つか心配も残ります。
 専門学校を考えているみなさんは、技能を吸収していくことは間違いないと思いますが、その業界の実態や見通しなど、少し先のことを考えてほしいのです。入学後の学校生活に厳しさがあるのは覚悟の上でしょうが、入試の難易度は高くないことが多いのですから、その分、業界選び、学校選びは時間をかけて調べて下さい。 最近は、専門学校のオープンキャンパスに行くだけで合格になる例や、「早めに手続きしてくれたら授業料が割り引き」という例もあるようです。そういうふうに生徒を集めようとする学校は疑問が残ります。

 蛇足かもしれませんが、こういうケースがないか心配しています。大学を目指していたけれども、受験勉強が苦しくて専門学校や短大を考えてはいないかどうかです。
 私も高三の時だったと思いますが、言い出したことがあります。恐らく受験で苦戦していたんでしょう、そんな時に、偶然、専門学校のパンフレットを目にしました。目にしましたというか、目に入るようになった。恐らく人はそれまでも同じように存在していたものでも、ある状態の時には視野に入らず、別のある状態になると視野に入ってくる。確かパイロット養成の専門学校だったと思います。パンフレットからは自分にとって楽観的な解釈しかしないままその気になっていきました。国家試験に受かった割合だとか、パイロットとは事業用なのか、自家用なのかなどよく見ないまま、卒業すれば国際線のジャンボのパイロットになれるかのように思い込んでいきます。今から思えばちょっとした熱病のようでした。その熱病がどうして醒めたのか思い出せません。母親から何か言われたような、友人に怒られたような気がしないでもありませんが、思い出せません。
 ただ、熱病のまま進路を決めなくてよかったと思っています。あの時は苦しみから逃れるために言い出していましたし、しかもそれは何か他人から羨ましがられるというか、一目置かれるような職業、自分が他人からどう見られたいかばかりを意識した選択をしようとしていたからです。

 杞憂であればいいのですが、もしあなたの選択がかつて私がそうなりかけたように、逃げであるのならとどまってほしい。逃げなくてはいけない出来事は世の中には存在しますが、そういう状態でないのなら踏みとどまってほしい。なぜならなぜなら後悔するからです。しかも、ずっと引きずっていかなくてはならない後悔になります。大学に行かなかったことに引け目や劣等感を感じて、高校卒業後は友人と連絡も取らない、同級会にも行かないというような例があると聞きます。そうはなってほしくないのです。

 逆に、そうではないなら、つまりここで述べてきているような心配やデメリットを理解した上で、大学に行かないのなら、あなたは大丈夫、安心です。

 専門学校や短大ヘ入学が決まったあとも、受験勉強を避けずに高校を卒業するまで熱心に学び続けた先輩たちがいます。最も自分が伸びる時期だと知っているからなのか、入学後も見すえているからなのか、何ごとも手を抜かない姿勢なのかわかりませんが、きっと信頼される仕事をしていくでしょう。自信を持った選択をしたのなら、コンプレックスを持つ必要は全くありません。

 大卒でなくても活躍している人はいる。

 大卒でなくても活躍している人はたくさんいます。そちらの方が多い業界もあるでしょう。次の図はネット上に掲載されている例です。見てみると、誰もが聞いたことがあるような勢いのある企業の経営者がいます。 


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 また、そのような華やかなというか、人目につくことが多い職業や企業ではなくても、活躍している人がいます。私たち公立高校の教員は他の職業と接する機会はあまり多くありませんが、それでも何かの折に接する他業種の方で「こういう人と一緒に仕事をしたいな」とか、こういう人は業界で「欠かせない人だな」と思える人に出会います。

 ただ、こういう反論もできます。大卒だったり、学歴があると活躍の邪魔になるのでしょうか。学歴があるがゆえに傲慢になって、ろくでもない仕事しかできなかったり、その傾向が強かったりするのでしょうか。

 問題は活躍していることと学歴の相関関係です。「活躍」の定義にもよりますが、活躍している人たちが学歴がないことが原動力になっていたり、学歴がないことで創造力や突破力が生まれているのかなどが判明すればいいわけです。しかし、そのような相関関係や割合を示したデータは見たことがありません。その一因はやはり「活躍」の定義が難しいためだと思います。
 少し俯瞰してみると、給料というか賃金は社会的に果たした役割、市場における価値に応じて支払われるので、一つの指標となります。ですから退職までの給料の合計額、生涯賃金がわかると活躍の度合いがある側面からは判断できます。生涯賃金についてはあとで述べます。

 しかし、シンプルに言って、問題は「人」なのではないでしょうか。専門学校卒でも活躍している人はいるし、そうでない人もいる。大卒でも活躍している人はいるし、そうでない人もいる。また狭い世界で恐縮ですが、私たち教員の世界でも、どこの大学を出ているかということと、生徒や同僚との信頼関係に相関は認められません。「○○大学を出ている先生はみんな素晴らしい」とか、「××大学出身の先生はみんなダメ」っていう傾向はないんです。あくまで人です。 

 ④お金のためだけに働くわけではない。
 高卒や専門学校卒、短大卒の人と、大卒では給料というか、生涯賃金で差が出ることは聞いたことがあるでしょう。早くから働けば早くから稼げますし、大学生は授業料や生活費がかかっているのだからその分費用がかかっています。それらを差し引けば、どうなるでしょうか。
 しかし、仮に生涯賃金が大卒の方が高かったとしても、人はお金のためだけに働くわけではなくて、やりがいだとか、自分をいかす仕事について日々暮らせればよいのではないか、という指摘もできます。これについては、また「その2」で述べます。