(2)過去の活動実績
前回は、大学は入学後の計画やプランを問うことを見てきました。大学は受験生に対して過去も問います。
受験生が口先だけでなく本気なら、高校時代からその兆しがあるはず。学びたい、学びたいと言っていても、そんなに学びたいなら、高校時代から少し何らかの動きをしているはず。よって、受験生が過去に何を学んできたかの証拠や実績、evidenceエビデンスが記録された「学びの履歴書」のようなこれまでの活動を報告させる書類を提出させるのです。
「未来の設計図」のような書類はあなたの入学後のこと、「学びの履歴書」のような書類はあなたのこれまで、過去のことを探って、本気度を見ています。次の書類は、ある大学の様式です。けっこう量を書かなくてはいけません。この行を埋めるだけの過去があるのか、問うています。
例えば、教育学部の面接で受験生がこう言う例があります。
「ハイ、私は児童・生徒の学習上のつまづきがないことが最も大切で、そのことがその子の自信や自尊心にも影響を与えていると考えています。ですからいち早く生徒のつまづきに気付いて、苦手意識を持つことがないように、一人一人をよく見たいと思います。」
そういう気持ちは正しい。もし今あなたがこんなような気持ちを持っているとしたら結構いい線いっていると思います。では「あなたが口先だけではない証拠はありますか」と面接官は言わないだろうが、それを本気で思っているなら、そのために今までどう動き、何をしてきたのか。
本気で総合型選抜で自分をアピールするくらいなら、例えば近くの中学校や地域の学習ボランティアに行ったことがあるなどの動き。
いや、多くの受験生はそういう実績、エビデンスは無いと予想できます。ホームルームで担任の先生がそういうボランティアがあることを紹介しているのは何となく覚えていますが、勉強や部活動で「それどころではじゃない」と当時は思っていた、今にになってみる行っておけばよかったという受験生が多数派だと思います。そういう実績はないけれども、でも部活動で苦しんでいるチームメートがいればそいつのことが嫌いでも声をかけてきたし、人間関係で苦しむ友人には相談にのってきた、決して口先だけではない‥。
この文章は、ボランティアのようなプラスアルファの実績が無い場合を想定しています。読み進めていって下さい。けれど、大学の側が「本気でそう思うなら、実績があるはずですよね」と構えていることが理解できました。
同じように看護学科や医療系を志望しているなら、一日看護体験や医師体験に参加して何か考えたことがあるでしょうし、救急救命士の講習も受けているかもしれません。「探究」や「課題研究」の時間には、関連する分野を掘り下げているかもしれません。
活動の実績、エビデンスがあれば、先の例でいえばこんなふうに表現が変わっていきます。
「マンツーマンで教えていても、生徒さんがどこにつまづいているのか最初わからずに、『とにかくそうなっているから覚えよう』というアドバイスになってしまいました。教えることは難しいことはもちろんですが、自分が適当に理解しているだけでは教えることができない、たった一人ですらそうでしたから、クラスを単位に生徒のつまづきに気づくのは大変だということが学習ボランティアを通じてわかりました。」
口先だけではない実績、エビデンスとはこういうことです。経験しなければ語れない内容が含まれています。「中学生に対して学習ボランティアに4回行った」という記載はもちろんエビデンスではあるが、それだとエビデンス稼ぎのためのボランティアと変わらなくなってしまいます。そもそもボランティア活動は経験した人はわかるでしょうが、相手にために始めたとしても、ボランティアをした自分のためになります。
動いて、経験することで何に気づいて、何を学んだのか、あなたの志願とどう関係するのか、それが実績、エビデンスの意味ということになります。
「生徒会長でした」、「主将で4番打者でした」、「○○委員会の副委員長でした」も同じことです。肩書きに頼って強調するのは勘違いです。そこでの経験で何に気づいて、何を学んだのか、あなたがこれから学ぼうと計画していることとどう関わるのかを伝えたいのです。
こんな先輩がいました。彼女は小さい時に母親と博物館に行って、ある展示品に目を奪われました。古代アッシリアの展示物。それがどうしても忘れられず、授業はもちろん世界史を選択し、こんなものをつくる古代アッシリアの歴史が知りたくて、自分でも本を読んだり、調べていました。調べているといくつかの著作の著者が同じ人物だということ、その著者がこの研究の第一人者だということがわかり、やがてその著者がいる大学へ進学したいと考えるようになります。そしてAO入試でそのアッシリア史や展示品の魅力やしたい研究を伝えることで合格していきます。
人づてに聞いているのであまりリアルに伝えられてないと思いますが、こういう本気さ、継続性が大切です。「このことについては、どうしても大学で深めたいんです。」という人で、今までも継続的にそういう視点で過ごしてきた人には向いています。周囲にもいるかもしれません。学校の勉強そっちのけで昆虫を追いかけて何か調べているとか、寝るのも惜しんでロボットを自作している、というような生徒さん。それを進学しても続けたくて、その道の第一人者がどこの大学や研究室にいるのかがわかっていれば、チャンスです。
また、授業の「探究」や「課題研究」もその意味でチャンスです。
さて、ここまで見てくると少し心配になってきた人もいるでしょう。とりわけ「自分は教科の勉強と部活動以外で継続して取り組んできたことがない」、実績、エビデンスがないという人。そういう人は先ほどあげてたような出願書類一つ書くのも簡単ではないことがわかりました。最初からマイナスを背負っていると言っていいでしょう。
次から、どうしたらいいか考えていきましょう。