今回は少しまとまりがないのですが、ロールズ、マザー・テレサ、レヴィナスを見ます。
 ロールズは現代において正義に関する理論を提唱した人物です。社会主義ではなく資本主義、自由主義の体制下で格差を是正するにはどうしたらいいのかを考えましたので、極めて現代的な意義があります。
 次から見る(2)の問題など過去問を見てみると、それぞれが正義や他者との関係に関してどう考えてきたのか整理されています。あなたはどの正義や他者関係が現代社会にふさわしいと思いますか。
 後半はマザー・テレサやレヴィナスです。マザー・テレサはカトリックの修道女としてインドへ派遣され、「死を待つ人の家」や「孤児の家」を開きます。キリスト教の隣人愛、イタリア語で慈悲を意味するピエタを実践した人物です。彼女は最大の不幸とは何かについて、こんなふうに言います。
この世の最大の不幸は、貧しさや病ではない。むしろそのことによって見捨てられ、誰からも自分が必要とされていないと感じることである。
 飢えは物質的なものだけではないこと、その飢えは現代にも、先進国にもあることを指摘しています。確かに田舎の暗い一本道を一人で歩いているよりも、渋谷のスクランブル交差点一人で歩いている方が孤独を感じる時があります。誰からも必要とされていないことは、自分が生まれ、生きている意味に関わります。
 レヴィナスは大戦中、親や兄弟をナチスに殺され、生き残ったのはほぼ自分だけという経験をしています。にも関わらず世界は平然と存在し続ける、その意味を考えました。彼のキーワードは「イリヤ」「他性」、「顔」です。「イリヤ」とは、かけがえのなさを失った、匿名の存在のことです。誰もが他の人とは同じであり得ない「他性」があるにもかかわらず、全体性の中に取り込まれてしまっている。「他者の他性に直面しないこと」とは、自我は結局は都合のいいものを集め秩序だてて、自分を揺るがす異質な他性を無視することです。ナチスの政策やナチスを支持する心情にそういう傾向があったのです。
 そんな「イリヤ」から抜け出すきっかけが「顔」です。「顔」は全体性を引き裂くことができるのです。例えば物乞いやホームレスの人と目を合わせて「顔」に出会えば、私は揺るがされます。何か手を差しのべたりしなくても、寄付した方がいいんだろうかと思ったり、何があってこうなったんだろうと考えたり、邪魔くさいから近寄ってこないで欲しいと考えたり、そう考えている自分を冷たいと思ったりと、その人の「顔」が私に影響を及ぼすのです。多くの場合、「顔」に出会うあることが怖かったり面倒なので気付かないフリをしてみたり、そもそも視界の外に置いたりします。「顔」は他者や他性の重みを知るきっかけをつくるのです。人を変えましょう。赤ちゃんから笑顔で見つめられれば、自然とこちらも笑顔になるでしょう。「顔」の力は大きいのです。
 これらの考え方も、現代社会において、人がどう扱われるべきか、「顔」と出会わない場面が増えていないか、示唆に富んでいます。
倫CS33表
倫CS33裏