今回は、フランシス・ベーコンをみます。
 ベーコンのキーワードは、「知は力なり」や「帰納法」、「経験論」、「4つのイドラ」です。
 「知は力なり」と著作『ノヴム・オルガヌム(新機関)』の中で述べ、自然を支配することを明確にしたのがベーコンです。現在、人間は自然を支配できるし、事実そうであるし、これからもそうあるべきだと考えられていますが、それを宣言したのがベーコンです。
 人間の知と力は一つに合する。原因が知られなくては、結果は生じないからである。というのは、自然は服従することによってでなくては、征服されないのであって、考察において原因にあたるものは、制作においては規則である。
 短い言葉ですが、いくつもの考え方が隠れています。知識が力になること(力の背後に知識があること)、結果には原因があること、自然は制服すべきであること、そのためにはどうなっているのか服従してよく見る必要があること(制作するためには規則を知る必要があること)などが示されます。
 自然への服従、知るためにとられた方法が「帰納法」です。次の単元で見るデカルトらの「演繹(えんえき)法」と対照されますが、個別の事例や事実、データから法則を見出す方法です。観察や実験から法則を見出す方法が「帰納法」ですから、確実な知識とは、こういうふうに感覚で得た事実や経験から見出されると考える立場を「経験論(イギリス経験論)」と言います。こちらもデカルトらの「(大陸)合理論」とは逆さまの考え方です。
 「4つのイドラ」のイドラ idola とは、アイドル idol=偶像、聖像、崇拝物の語源です。ときおりアナタの受験勉強をアイドルへの妄想が邪魔をするように、イドラは 正しい認識の邪魔をします。
 問題に接するとわかりますが、ベーコンの4つのイドラ、「種族のイドラ」「洞窟のイドラ」「市場のイドラ」「劇場のイドラ」は区別が必要です。
 少し俯瞰すると、現代に生きる私たち自身がこれら4つのイドラにいかに捕らわれているか、わかります。ベーコンが最もやっかいだとした「市場のイドラ」、人との交流の中で「言葉」を事物そのものだとみなす誤りのことですが、世の中には実態として存在しないものも「言葉」になって、人々を喜ばせたり、苦しませたりしています。イドラを避けると、真実、真理とは言えないまでも、偏見に陥らずにものごとを見る際の参考になります。
倫CS21表
倫CS21裏