今回は江戸時代の洋学を学びます。このあたりの単元もたくさんの人物が登場して、日本史を兼ねている人以外は人物を区別するのも一苦労ですので、踏ん張りどころです。
 鎖国中の日本ですが、長崎のオランダ商館を窓口にして西洋の学問(蘭学)を学ぶことができました。オランダ語の『ターヘル・アナトミア』を『解体新書』へ翻訳した前野良沢や杉田玄白が有名です。解剖を実見した際に『ターヘル・アナトミア』の図説の正確さに衝撃を受けたとはいえ、辞書がない時代に翻訳するのは大変でした。私たちも英文中にわからない単語があると、別の場所で使われている同じ単語から意味を推測したりしますが、ほとんどの単語がわからない中での翻訳です。その苦労が『蘭学事始』からうかがえます。
 それとは別にシーボルトに医学を学び、尚歯会(蛮社)というグループをを結成した高野長英や渡辺崋山は、医学にとどまらずに幕府の鎖国を批判し、蛮社の獄という洋学者弾圧で罰せられ、のちに自害しています。ヨーロッパの実用的な技術にとどまらず、その背景にある社会を考える視点も出てきました。
 さらに日本の文化との関係を考え、また政治的にも影響力を持ったのが佐久間象山や横井小楠、吉田松陰です。
 佐久間象山のキーワードは「東洋道徳、西洋芸術」でいいでしょう。芸術とは技術のことです。技術はヨーロッパから積極的に取り入れるが、道徳や社会体制では東洋が優れていると考えました。開国、公武合体を主張し、一橋慶喜にも説いたので、尊王攘夷派に暗殺されます。
 横井小楠も、ヨーロッパの技術が優れていることは認めますが、徳はない。むしろ日本の儒教の徳があれば富国や強兵に怖いものなし、それこそ世界に通用すると言います。東洋の儒教道徳を世界に広めるべきである、とまで言います。「和魂洋才」という言葉こそ直接は使っていませんが、意味としては同じ、象山も小楠も科学技術と道徳や精神性をバラして並行させていくところに特徴があります。
 象山のもとで学んだのが吉田松陰です。キーワードは「万民一君」、「草莽崛起(そうもうくっき)」です。「万民一君」とは、それまで人々は藩に仕えていましたが、日本の唯一の君主は天皇であり、誠をもって天皇に忠誠を尽くすべきという考え方で、幕府を相対化し、また国学の影響を受けているでしょう。「草莽崛起」は、志を持った者たちが草むらから山のように立ち上がるという、いうなれば雑草魂を持ってAct Locally!のすすめです。彼は安政の大獄で刑死していますが、師を殺された弟子たち(高杉晋作や伊藤博文、山県有朋など)が、幕府を倒していくことになるのです。

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