(8)覚えていることができるか。そして緊張のピーク


 これまでのように面接練習してくると、けっこう答えられる自分に気付きます。自分のことも大学のことも見えてきたし、表現したいこともハッキリしてきました。そうすると新しい問題が生じます。それは「本番までに、その答えが覚えていられるか」です。
 結論からいえば、暗記する必要はありません。面接官の方も、暗記している台詞を呪文のように聞かされることは嫌なものです。たまに、本当にぶっつけ本番、面接練習も自分を振り返ることもしてきていないという受験生がたまにいて、「何しに来たの?」「うちの大学も舐められたもんだ」というケースもありますから、それよりはしっかり準備した方がいい。でも暗記は必要ではありません。
 また、大学のアドミッションポリシーやHPを調べる作業を即席でしてきたからでしょうか、それらに使われていた言葉をオウム返しのようにアピールしてくる生徒がいます。自分の言葉で語ることができていません。「御校のことをキチンと調べたんです」、「私は御校に沿った生徒です」とアピールしたい気持ちはわかりますが、大事なのはそこではありません。
 大事なのは、繰り返しになりますがあなたが学びたい、解決したい計画と大学が持っているメニューをつなげること、「私が学びたいこれを解決するためには、お宅の大学がベストなんです」というつながり、マッチングです。

スライド13マッチング

 高校受験の前期選抜をしていると、面接官に「いいなあ」と好印象を与える生徒がいます。なぜ好印象なのでしょうか。
 ・暗記していない。
 ・時々、笑顔が混じる。
 ・スラスラというよりは、ゆっくり話す。
 一言でいえば、自然体、平常心。合否のかかっている面接にのぞんでいるとは思えないほど、普通にしています。
 先ほど、ぶっつけ本番、面接練習も自分を振り返ることもしてきていないという受験生がたまにいることを紹介しましたが、矛盾するようですが、稀に結構いい面接になって、合格する場合があります。長い時間をかけて自分のことを振り返り、練習してきた受験生からすると腹立たしいことでしょうが、その稀な場合とは、例えばこういう場合です。
 小さいときから昆虫が好きで野山を駆けずり回って、いろいろ調べてきたのでその道ではかなり専門性が出てきて、第一人者の先生や大学もわかっていて、大学入学後も何を突き詰めようとしているかハッキリしているような生徒。面接における表現は荒削りですが、やりたいこととやってきたことの軸ができているので評価されます。これはレアなケースですが、新しい入試方法に適合しています。
 けれど、多数派の受験生はそうはいかないでしょう。ここで伝えたいのは、そういう練習せずに合格する生徒が存在するくらい、暗記ではなくて、入学後の設計や志望動機のような軸が大切だということ。

 平常心はどうやったら身につくのでしょうか。
 今までで一番緊張した出来事は何だったか、思い返してみましょう。
 部活の大会で勝敗がかかった場面、コンクールで幕が上がる瞬間、文化祭で発表した時、初めてのデートの待ち合わせで約束の時間が迫ってきた時‥
 一番緊張した出来事は人によって違います。なかなか一度や二度の経験で「もうどんな場面でも緊張しない」なんて人はいないでしょうし、今回は合格、不合格のかかった面接です。多くの人が「今までで最も緊張」する場面になると予想されます。
 面接が始まってしばらくたつと緊張もほどけてきます。が、最初の一言を発する前、面接室に入るために、ドアをあけるあたりで緊張はピークになるでしょう。手に汗握っている自分、季節は冬なのに、背中や脇の下から汗が落ちてくる自分に気づいたりして「あー、ヤバイ」となります。
 どうしたらいいでしょうか。
 正解はわかりません。ただ「悲観的に準備し、楽観的に対処する」ことかと思います。つまり、自分が思う最悪の事態を想定して、次に、もしそうなったら「こうしよう」と準備しておくことです。繰り返しになりますが、
 ・「どんな場面でも緊張しない」なんて人はいない。
 ・面接官は、噛んだらダメ、つまったらダメ、なんて思っていない。
 ・暗記する必要もない。
のです。問われていることは基本3種類。「あれだけ考えて、準備しておいたんだから」、「やるだけのことはやっておいた」と思えれるよう備えておきさえすればいいのではないかと思います。丸暗記で呪文を唱えるように表現するのはよくないのだから、忘れたらどうしようなんて考える必要もありません。

 先輩たちの受験報告書を蓄積している学校もあるでしょう。毎年聞かれていることや、よく聞かれる質問は繰り返し練習する。滑らかに淀みなく答えられるようになる。しかし、その暗記した分だけ気持ちの本気さや熱が伝わらないとしたら結果も良くないでしょう。大切なのは伝えようとする内容なのであって、淀みない表現ではありません。途切れ途切れでも、身振り手振りでフォローしても全然構わない、言い直したって構わない。過去の自分、志願している自分、未来への計画を伝えてください。

 最近は「噛んだらどうしよう」と緊張するらしいのですが、何回噛もうと、合否には関係ありません。上手くしゃべれないことはマイナス材料にはなりません。面接では面接官や面接室によって採点基準がズレないように評価表、ルーブリックを手元に置いています。言い直したからマイナス点、チェックを付けたと言う例は聞いたことがありません。「おなかが鳴ったどうしよう」と言う生徒さんもいますが、同じです。おなかがどれだけ大きな音で鳴ってもそのことで不合格にはなりません。大切なのは、あなたが伝えようとしている内容です。丁寧に一生懸命話せば、必ず伝わります。アナウンサーではないのだから、スマートでなくたって少しも構わない。この点はも誤解しないで臨んで下さい。