高校 政経・倫政の補習講座

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タグ:全体的正義

 今回はアリストテレスを見ます。
 アリストテレスは細かく感じると思います。関心が広くて、プラトンよりもさらに厳格に区別しようとしましたので「万学の祖」とも呼ばれたくらいです。よって、キーワードもたくさんあります。ポイントは形相と質料の違い、徳の分類、そのうちの習性的徳の中庸、正義の分類、政治形態の分類など、どう分けたのかが区別する問いが多くなっています。アリストテレスについては、けっこう深入りした出題が多くなっていますので、過去問をたくさん解いて、「ああ、間違えた。どこを誤解していたんだろう」と修正していくのが近道です。
 過去問に入る前に、おおざっぱにプラトンとの違いをふまえておきましょう。アリストテレスにとってはイデア界など存在しません。「本当のこと」は一つ一つの個物の中に宿っています。例えば、目の前にある机について、プラトンなら「机のイデアがある」と説明しますが、アリストテレスは「机の本質はこの机に内在している」と考えます。どこか遠くにあるのではなくて、ココにあるのです。机は本質である形相と、素材である質料で成り立っていて、この世に存在しているものは、形相という本質を実現する目的で発展していきます。とすると、存在しているものは何らかの目的を実現するように位置づけられていることになります。これを目的論的自然観と言います。
 俯瞰します。アリストテレスはたくさん分類したので、哲学する材料もたくさんあります。「完全な友愛があれば正義などいらない」もラディカルですね。現代において議論を呼んでいる点を1つ紹介します。それは「人間はポリス的な動物である」と述べた点です。師匠の師匠、ソクラテスは死刑判決を受け入れる理由の一つとして「(ポリス・国家・共同体)の下に生まれ、養われ、かつ教育された」と述べたことを受け継いでいます。単純にいえば世話になり、育てられたポリス、共同体から離れて正義や善は存在しない、とアリストテレスは考えました。一方で人々の権利や欲求を実現するための手段として国家や共同体が存在している、という考え方が近代以降主流になります。単純化すれば、国家や共同体とは何か敬うべきものなのか、それとも人々の道具のようなものなのか、です。現代社会の諸国家、共同体が揺らいでいて、あるべき姿が模索されているので議論となるのです。のちの単元にも出てきますが、『ハーバード白熱教室 講義録 上下』や『これからの正義の話をしよう』の著者、マイケル・サンデルは、アリストテレスを参照しています。
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 今回はアリストテレスです。
 彼は徳、友愛、正義、事物の本質(形相と質料)などを分類した人です。『ニコマコス倫理学』や『政治学』が主著ですが、『動物学』では500以上の生物を観察し「生物学の祖」とも言われるほどです。それほど分類好きです。
 それもあって、ここでのポイントは、アリストテレスが分類した徳や正義の種類を区別することです。しっかり区別してから問題を解こう、と考えてもはかどらないかもしれないので、問題を解いて区別を復習する方法をオススメします。

 蛇足ですが、M・サンデルは『ハーバード白熱教室』や『これからの「正義」の話をしよう』でアリストテレスをよく引用します。ずっと後の単元で出てきますが、サンデルは「人間はポリス的(共同体的)動物である」とアリストレテスが言ったように、人間というのはその人が属する共同体と無縁ではいられない、自由や結果よりも、共同体の善を求める点で、共通する考え方をするからです。
 アリストテレスが分類した配分的正義や調整的正義の考え方は、例えば「マイケルジョーダンの報酬は適切か」、「歴史的に不利な境遇におかれた黒人を、大学入試で有利にあつかうアファーマティブアクションは適切か」など、現代の諸課題を考えるのにも役立ちます。
 同じように「人間はポリス的動物である」という考え方は、例えば「過去に自国が起こした過ちを、過ちが起きた時点では生まれていなかった者に責任はあるか」をアリストテレスなら「ある」と言うでしょう。

 考えはじめると結構楽しいです。たぶんそうやって考えていることが哲学なのです。
 ただ、深入りしすぎると受験勉強がはかどりませんので、ほどほどに。

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